シカゴ・パンク初期(1981年から1983年)第一波
シカゴ・パンク/ハードコア・シーンは77年から始まり84年ごろ終息する。81年ごろを境に第一波と第二波に分かれる。第一波と呼ばれるバンドたちは、81年に発売されたシカゴのパンク・バンドを集めたコンピレーション『Busted at OZ』に収録されたバンドたちが代表する。コンピレーションに参加したバンドは、Naked Raygun(ネイキッド・レイガン)、The Effigies(エフィシーズ)、Strike Under(ストライク・アンダー)、Da!(ダ!)、Subverts(サバーツ)、Silver Abuse(シルバー・アヴィース)の6バンド。ここでは映画で紹介されていた第一波のバンドたちを紹介したい。
NAKED RAYGUN(ネイキッド・レイガン)
出典:Bandcamp
Naked Raygun(ネイキッド・レイガン)は、シカゴ・パンクシーンを代表するバンドだ。ギタリストのSantiago Durango(サンティアゴ・デュランゴ)とベースのJeff Pezzati(マルコ・ペッツァーティ)によって80年に結成された。81年ごろにもっとノイジーな音楽をやりたかったSantiago Durango(サンティアゴ・デュランゴ)とJeff Pezzati(ジェフ・パツェッティ)が脱退しSteve Albini(スティーヴ・アルビニ)とともにBig Black(ビック・ブラック)を結成。Jeff Pezzati(マルコ・ペッツァーティ)の弟であるJeff Pezzati(ジェフ・ペザティ)のみバンドに残り、その後ギターにJohn Haggerty(ジョン・ハガディ)、ベースにPierre Kezdy(ピエール・ケズディ)、ドラムにEric Spicer (エリック・スパイサー)メンバーを加え、Naked Raygun(ネイキッド・レイガン)を継続していく。パワーポップよりのメロディックなパンクで、92年ごろまで活動が続いた。Santiago Durango(サンティアゴ・デュランゴ)とJeff Pezzati(ジェフ・パツェッティ)が在籍時の初期のころ収録されたEP『Basement Screams(ベースメント・スクリームス)』ではアーティスティックなパンクを展開していたが、83年に発表された『Throb Throb(スロブ・スロブ)』以降ではシンプルでメロディックなギターで、ホーホー・コーラスが特徴の、Naked Raygun(ネイキッド・レイガン)節を確立した。メロディックなパンクで、戦争に対する社会風刺から、もてない男の心情を歌い、体制や大衆側に対し批判的な態度のパンク・アティテュードを持っていた。
THE EFFIGIES(エフィシーズ)
出典:Midwest Indie, Punk, and Hardcore Archive!
The Effigies(エフィシーズ)は、シカゴ・ハードコア・シーンを象徴するハードコア・パンクなサウンドを展開していた。切れ味鋭いハード・エッジ・ギター、ときに神経質に鳴り響くメロディー、ギャング・オフ・フォのよう一定のリズムで叩くドラム、ファンキーなリズムのベースなど、イギリスのパンクからの影響が非常に強い。ブーツとサスペンダーというスタイルで、The Effigies(エフィシーズ)のことを人種差別的なバンドと誤解する人もいたが、ただ単純にSHAM69(シャム69)などのイギリス労働者階級のパンク・バンドが好きだったから、その恰好をしていたそうだ。立場的には左翼で、きっちりとした知識に基づいた社会派の歌詞で、反レイガンという立場を貫いていた。
STRIKE UNDER(ストライク・アンダー)
出典:Wikipedia
Strike Under(ストライク・アンダー)は80年に結成され81年に解散と、短命なバンドだった。シカゴのなかでもハードなパンクバンドで、活動時に唯一発表された81年のEP『Immediate Action(イミディエイトリー・アクション)』では、メロディー重点を置いたイギリスの初期パンクなサウンドを展開していた。
DA!(ダ!)
出典:Wikipedia
DA!(ダ!)は79年に結成され82年に解散したメロディックでポップなパンク・バンド。あとにシカゴ公立図書館システムの司書となったボーカル兼ベースの女性Lorna Donley(ロルナ・ドンリー)を中心に、The Cure (ザ・キュアー)や、Gang of Four(ギャング・オブ・フォー)、Bauhaus (バウハウス)にSiouxsie And The Banshees (スージー・アンド・ザ・バンシーズ)などのアーティストの影響を受けたサウンドが特徴だ。影響の受けたイギリスのバンドたちと比べると、そのサウンドは陰りのあるメロディックで、ポップ感がさらに強いムーディーでアートなパンクだった。
SILVER ABUSE(シルバー・アヴィース)
出典:Wikipedia
Silver Abuse(シルバー・アヴィース)は、<嘲笑を目的とした役立たずのオタク集団。ポスト・モッズの残光をろ過する高学歴の一団>という言葉をモットーに掲げていたバンド。その言葉通り、ナチズムをパロディー化した格好でファニー・ジョークを演じた、おふざけバンドだった。サウンドはポスト・パンクをベースに、ロカビリーに奇妙なムーヴシンセを加え、奇怪で奇抜なサウンドを展開していた。
SUBVERTS(サブバーツ)
出典:Bandcamp
Subverts(サブバーツ)は、81年に発表したEP『Independent Study(インディペンデント・スタディー)』を残して解散した短命のバンド。初期パンクの荒々しくソリッドなギターサウンドで、苛立ちや不満を吐き出す展開。歌詞は大統領が議員に対して行う演説という意味の“State Of The Union(一般教書演説)”から、“Man For The Job(仕事のための男)”や“Radiation Nation(放射線国家)”から、TV Personality(テレビのパーソナリティー)など、社会派的な内容を歌っていた。