ここでは00年以降のシカゴのバンドたちを紹介したい。
𝄃メロディック・パンク
Screeching Weasel(スクリーチング・ウィーゼル)
出典:WBEZ CHICAGO
86年から活動しているメロディック・パンクの先駆者的存在で、西海岸のバンドが中心に始まった90年代のメロコア・ブームと同時代に活躍していたバンド。RAMONES(ラモーンズ)やThe Dickies(ザ・デッキーズ)などのバンドから影響が強いメロディック・パンクで、同期にThe Queers(ザ・クィアーズ)がいて、少し下にGREEN DAY(グリーンディ)がいる。初期のころは、Circle Jerks(サークル・ジャグス)、Adrenalin O.D.(アドレナリンO.D.)、Angry Samoans(アングリー・サモアンズ)などのロスアンゼルス・ハードコアの影響が強いサウンドだったが、アルバムを重ねるごとに泣きのメロディーが増し、より円熟味を増していった。最高傑作は『My Brain Hurts(マイ・ブレイン・ハーツ)』で、明るくポップで楽しいメロディック・パンクのなかに、独特なメロディーのあるScreeching Weasel(スクリーチング・ウィーゼル)のスタイルを確立。メロコア・バンドらしく、恋をしていないとか、高校時代の自分はサイコパスだったとか、日常で起きた出来事での怒りやコンプレックスなどについて歌っている。だが、シカゴのバンドゆえ、西海岸のメロコアブームに乗ることができず、終始アンダーグランドのマニアックな存在でいた。だが“The Girl Next Door(ザ・ガール・ネクスト・ドア)”という曲がBLINK182(ブリンク182)にカバーされ、専門的な知識を持ったアーティストからは、評価のされていたバンドでもあった。87年のデビュー作から現在にいたるまで15枚のアルバムを発表している。いまなお情熱が衰えることなくアクティブな活動を続けている。
Rise Against(ライズ・アゲインスト)
出典:ERNIE BALL
Articles of Faith(アーティクルズ・フェイス)の左翼ポリティカルな遺志を受け継いだバンドがRise Against(ライズ・アゲインスト)だ。NOFXやBAD RELIGION(バッド・レリジョン)などのメロコアをベースに、ゆるぎない信念を貫く熱さがこのバンドの魅力だろう。アニマルライツや環境保全、ヒューマニズムなどを掲げた社会的な内容を歌っている。速いテンポやメロディー、キャッチーなフック、アグレッシブなサウンドとプレイスタイルなどは、90年代的なメロコア・サウンドだが、構築されたメロディーの部分に、シカゴの伝統は受け継いでいると感じる。
FALL OUT BOY(フォール・アウト・ボーイ)
出典:Rolling Stone
FALL OUT BOY(フォール・アウト・ボーイ)は、GREEN DAY(グリーン・ディ)やBLINK 182(ブリンク182)に匹敵するワールドクラスの人気を獲得し、00年代のメロディック・パンクを代表するバンドだ。彼らの最高傑作である『From Under the Cork Tree(フロム・アンダー・ザ・コーク・ツリー)』では、メロディック・パンクにスイング・ミュージックと呼ばれるシカゴ・ジャズのギタースタイルを取り入れ、唯一無二の個性を確立。シカゴ・サウンドと呼ばれる新しいスタイルのメロディック・パンクを生み出した。古きシカゴの伝統を継承しながら、当時流行していたメロディック・パンクと融合する才能は、彼らがひとつのトレンドを作ったといっても過言でないほど、素晴らしい作品だった。その後もNaked Raygun(ネイキッド・レイガン)の“New Dreams(ニュー・ドリームス)”をカヴァーし、フロントマンであるJeff Pezzati(ジェフ・ペザティ)と共演を果た。シカゴ・パンクの伝統をリスペクトし大切にしているバンドなのだ。
Alkaline Trio(アルカライン・トリオ)
出典:ALTERNATIVE PRESS
Alkaline Trio(アルカライン・トリオ)は、Social Distortion (ソーシャル・ディストーション)やface to face(フェイス・トゥ・フェイス)に影響を受けた西海岸のメロディック・パンクに、Misfits (ミスフィッツ)などのゴズやホラーを合わせたバンド。ホラー・パンクとも呼ばれているAlkaline Trio(アルカライン・トリオ)だが、彼らの最高傑作である4作目の『Good Mourning(グッド・モーング)』では、ナイフを持った殺人鬼の影だけが揺らめくような淡いメロディーと、ムーディーでハスキーなボーカルが特徴のメロディックなサウンドで、孤高の存在感を放っていた。同じくホラー・パンクと呼ばれた同世代のAFIや、あとにブレイクを果たすMy Chemical Romance (マイ・ケミカル・ロマンス)などのバンドと比べると、甘美で妖しげなエクスタシーと恍惚感を感じるのは、Alkaline Trio(アルカライン・トリオ)だけ。その甘美で美しいメロディーは、オリジナルティーあるメロディーを追求するシカゴの伝統を、確実に受け継いでいる。